高校教科書再活用のすすめ ~受験生への小さな苦言と大きな提言~(3)

 其の三。これは大学の教師になってからの話。私の自宅のある地域は古い住民が多く、組、班といった単位での町内会組織が活発に機能しています。ある日、私は町内会の用事で最寄りの消防署に行きました。その時、消防署の掲示板に危険物取扱者試験の受験案内が貼ってあるのに目が止まりました。その瞬間、「其の二」で述べた私の化学への関心が再燃しました。今まで長い間、自分を文系人間と規定して生きてきましたが、その殻を破ってみよう。そのような思いが走り、高校の化学と物理の教科書を徹底的に学び直したのです。ちなみに、私の教科書は使い壊してしまったので、息子の教科書を「お下がり」ならぬ「お上がり」として使いました。その成果でしょうか、多くの技術系資格を取得することができました。乙種1類から乙種6類まで全ての類の危険物取扱者、甲種防火管理者、毒物劇物取扱者、甲種火薬類取扱保安責任者、エックス線作業主任者、ガンマ線透過写真撮影作業主任者、16ミリ映写機技術者、レーダー級海上特殊無線技士、第二級陸上特殊無線技士、第四級アマチュア無線技士、一級小型船舶操縦士・・・等々。もちろん、それぞれの資格専門のテキストや過去問集が出版されていますが、その内容のかなりの部分を高校の教科書でカバーすることができます。時々、自分の仕事に関係のない資格を取って何になるの?といった、批判ともとれるような質問を受けます。私はこう答えます。「その資格を職業にしている人たちの仕事を理解し、感謝するためです」と。しかし、資格を取る過程で勉強した知識が実際に役に立つことはたくさんあるのです。たとえば、毒物劇物取扱者。この資格を与えられるのは、私のような資格試験の合格者以外には、薬剤師の資格を持っている人と、大学等で応用化学を修めた人に限られます。当然、化学と物理の全般的な知識は言うに及ばず、毒物劇物取締法で毒物や劇物に指定されている個々の物質の性状や化学構造、保健衛生的見地からの法令による規制などを知悉しなければなりません。毒物・劇物はひとたび貯蔵、運搬、廃棄等の方法を誤れば、大規模な環境汚染や健康被害を招きかねません。環境の時代ともいわれる現代において、毒物・劇物を扱う事業者に限らず、環境を保護するための知識をこの資格を通じて身につけることは有益であると確信しています。私にたくさんのライセンスをプレゼントしてくれた高校の教科書に本当に感謝しています。

 其の四。私の家族は百人一首が大好きです。もちろんカルタ取りも楽しみますが、むしろ坊主めくりにハマっています。受験生の皆さんは「坊主めくり」という遊びをご存知ですか? 百人一首の読み札を裏返しに重ねて順番に1枚ずつめくり、姫の絵を引いたら場にある札を全部自分がもらい、坊主の絵を引いたら自分がそれまでに取った全部の札を場に放出しなければならないというルールで、最後に手元にある札の枚数を競うというものです。一瞬にして全部の札を失うスリルがあって、単純なゲームですがとても面白いですよ。どういうわけか、いつも私が坊主を引いて大負けするのです。たとえば、私が「蝉丸」の札を引くと、間髪入れずに「これやこの行も帰るも別れてはしるもしらぬも相坂の関」と家内や息子が吟じます。どうやら、ほぼ全首を諳んじているみたいです。私はまだ、特にお気に入りの数首しか諳んじられませんが。実は、家族それぞれが、百人一首を扱っている高校の時の古文の教科書や副読本を手元に置いていて、暇な時にとりとめもなく読み返すのを無上の楽しみにしているのです。こうして、お金もかからず遊べて、日本人としての教養も深まり、そして家族団欒のお供にもなっている、高校の教科書の価値を再発見した次第です。

 以上、筆(キーボード?)の勢いに任せて、長々と綴ってしまいました。最後まで読んで下さった皆さんには心からお礼を申し上げます。そして、書かれている内容はあくまでも私の個人的な見解であることを念のために申し添えます。

 この拙いブログ記事を契機として、1人でも多くの受験生や大学生が高校の勉強の価値を再認識し、入試科目ではないためにお蔵入りしてしまった高校の教科書に再び日の目を見せる機会がわずかでも増えたら、私にとって望外の幸せです。

 

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