獨協大学英語教育研究会(DUETA)2012年度 第2回目講演会


去る216日土曜日に獨協大学英語教育研究会(通称DUETA)の今年度第2回目講演会を開催しました。この研究会は、英語教員を目指している学生と現職英語教員の交流を深めるために2001年に発足し、教職課程の「英語科教科教育法」という授業を担当している英語学科教員と本学科OB英語教員を中心に企画・運営しています。

今回は本学科を1985年に卒業された中野達也先生(都立白鷗高等学校付属中学校)をお招きし、「中学英語から高校英語への移行:音読・暗唱・暗写からその先へ」 と題した講演を行っていただきました。中野先生は、生徒さんの様子を動画で紹介しながら参加者も音読や暗唱を実際に体験するという参加型で行って下さいました。中野先生の軽妙なトークと豊富な経験に基づく大変興味深い講演となりました。会場案内の立て看板が倒れてしまうほどの春の嵐が吹き荒れた一日でしたが、学部生や近隣の中学校・高校の教員を中心に80名を超える方にご参加いただき、盛況のうちに終了しました。

中野先生を始めとし、本学科は埼玉県などの関東地方の中学校や高校の英語教員を多く輩出してきていることをみなさんはご存知でしょうか。多くのOBが教員として大学に戻ってきてDUETAに参加してくださっていて、教員を目指している学生にとっては大変よい刺激となっています。また、OBの方にとってもDUETAはどんどん新しくなっていくキャンパスを訪れて変化を感じるよい機会にもなっているそうです。知らないだけで皆さんの英語の先生も実は本学の卒業生かもしれませんね。

DUETAの活動にご関心のある方はこちらもどうぞご覧下さい。
http://www2.dokkyo.ac.jp/~else0001/

 

高校教科書再活用のすすめ ~受験生への小さな苦言と大きな提言~(3)

 其の三。これは大学の教師になってからの話。私の自宅のある地域は古い住民が多く、組、班といった単位での町内会組織が活発に機能しています。ある日、私は町内会の用事で最寄りの消防署に行きました。その時、消防署の掲示板に危険物取扱者試験の受験案内が貼ってあるのに目が止まりました。その瞬間、「其の二」で述べた私の化学への関心が再燃しました。今まで長い間、自分を文系人間と規定して生きてきましたが、その殻を破ってみよう。そのような思いが走り、高校の化学と物理の教科書を徹底的に学び直したのです。ちなみに、私の教科書は使い壊してしまったので、息子の教科書を「お下がり」ならぬ「お上がり」として使いました。その成果でしょうか、多くの技術系資格を取得することができました。乙種1類から乙種6類まで全ての類の危険物取扱者、甲種防火管理者、毒物劇物取扱者、甲種火薬類取扱保安責任者、エックス線作業主任者、ガンマ線透過写真撮影作業主任者、16ミリ映写機技術者、レーダー級海上特殊無線技士、第二級陸上特殊無線技士、第四級アマチュア無線技士、一級小型船舶操縦士・・・等々。もちろん、それぞれの資格専門のテキストや過去問集が出版されていますが、その内容のかなりの部分を高校の教科書でカバーすることができます。時々、自分の仕事に関係のない資格を取って何になるの?といった、批判ともとれるような質問を受けます。私はこう答えます。「その資格を職業にしている人たちの仕事を理解し、感謝するためです」と。しかし、資格を取る過程で勉強した知識が実際に役に立つことはたくさんあるのです。たとえば、毒物劇物取扱者。この資格を与えられるのは、私のような資格試験の合格者以外には、薬剤師の資格を持っている人と、大学等で応用化学を修めた人に限られます。当然、化学と物理の全般的な知識は言うに及ばず、毒物劇物取締法で毒物や劇物に指定されている個々の物質の性状や化学構造、保健衛生的見地からの法令による規制などを知悉しなければなりません。毒物・劇物はひとたび貯蔵、運搬、廃棄等の方法を誤れば、大規模な環境汚染や健康被害を招きかねません。環境の時代ともいわれる現代において、毒物・劇物を扱う事業者に限らず、環境を保護するための知識をこの資格を通じて身につけることは有益であると確信しています。私にたくさんのライセンスをプレゼントしてくれた高校の教科書に本当に感謝しています。

 其の四。私の家族は百人一首が大好きです。もちろんカルタ取りも楽しみますが、むしろ坊主めくりにハマっています。受験生の皆さんは「坊主めくり」という遊びをご存知ですか? 百人一首の読み札を裏返しに重ねて順番に1枚ずつめくり、姫の絵を引いたら場にある札を全部自分がもらい、坊主の絵を引いたら自分がそれまでに取った全部の札を場に放出しなければならないというルールで、最後に手元にある札の枚数を競うというものです。一瞬にして全部の札を失うスリルがあって、単純なゲームですがとても面白いですよ。どういうわけか、いつも私が坊主を引いて大負けするのです。たとえば、私が「蝉丸」の札を引くと、間髪入れずに「これやこの行も帰るも別れてはしるもしらぬも相坂の関」と家内や息子が吟じます。どうやら、ほぼ全首を諳んじているみたいです。私はまだ、特にお気に入りの数首しか諳んじられませんが。実は、家族それぞれが、百人一首を扱っている高校の時の古文の教科書や副読本を手元に置いていて、暇な時にとりとめもなく読み返すのを無上の楽しみにしているのです。こうして、お金もかからず遊べて、日本人としての教養も深まり、そして家族団欒のお供にもなっている、高校の教科書の価値を再発見した次第です。

 以上、筆(キーボード?)の勢いに任せて、長々と綴ってしまいました。最後まで読んで下さった皆さんには心からお礼を申し上げます。そして、書かれている内容はあくまでも私の個人的な見解であることを念のために申し添えます。

 この拙いブログ記事を契機として、1人でも多くの受験生や大学生が高校の勉強の価値を再認識し、入試科目ではないためにお蔵入りしてしまった高校の教科書に再び日の目を見せる機会がわずかでも増えたら、私にとって望外の幸せです。

 

高校教科書再活用のすすめ ~受験生への小さな苦言と大きな提言~ (2)


  ここまで書くと、きっと現役の受験生の皆さんから反論が起こると思います。現実に目前に入試が迫っている以上、入試科目の勉強だけに集中しなければならない、好きで入試科目以外の科目をすてているわけではない、この時期になってこんなブログを読んでも何の励みにもならない・・・などと。気持はよくわかります。私だって、この時期に慌てて入試科目以外の勉強を始めろ、などと受験生の皆さんに言うつもりは毛頭ありません。少数科目入試に起因する学力低下は国全体で取り組むべき教育制度の大問題であり、私のような一介の教師が悲憤慷慨したところで何の解決になりません。そこで、もし、これを読んで下さっている受験生の皆さんが不幸にも高校で入試科目以外の勉強を捨ててしまったとしたら、私は次のような提言をしたいと思います。

1.まずは、目前の入試を制して志望校に合格する。
2.めでたく大学に合格できたら、入学までの自由な時間や入学後の暇な時間に、入試科目以外の高校の教科書を「1冊の本」として、改めて通読する。
3.各科目の基本事項は、学部学科を問わず知っておかなければならない一般常識であると自覚し、徹底的に覚えなおす。
4.ニュースや報道の中で知らない事柄に出会ったら、すぐネットで「ググったり」せず、できるだけ高校の教科書から知識を得るように努める。
5.最後に、高校の勉強が実社会で役に立ち、面白いものだということを実体験できる機
会を積極的に見出す。

 私が以上のような提言をするのは、私自身が高校の勉強や高校の教科書が後からとても役立ち、かつ、面白いと思った機会をたくさん経験しているからです。手前味噌かもしれませんが、いくつか紹介したいと思います。

 其の一。私が初めて自分でお金を稼いだのは、大学1年の時に測量会社でアルバイトをした時です。朝早くから、作業服にヘルメットのいでたちで、ポールや三脚を抱えて、測量士といっしょにあちこちの作業現場を回りました。測量士がポール(「標尺」といいます)の目盛を読み取っている間、私はポールをまっすぐ水平に支えているのが仕事です。ポールには気泡管という装置が取り付けてあって、中の気泡が真ん中にくるように支えるのですが、これが案外難しい。特に風の強い日はどうしても左右に大きく揺らぎ、何度も「こら、しっかり持ってろ!」と怒鳴られました。読み取りがうまくいくと、測量士は手早く手帳サイズのフィールド・ノートに何やら数値を書き込み、夕方会社に帰ってから複雑な計算をするのです。ある日、作業中の測量士の書類を盗み見たら、sincostan・・・と、高校の数学でさんざん苦労させられた、「例の記号」のオンパレードではありませんか! そうです、測量は三角関数の応用なのです。測量しようとする区域をいくつもの三角形で網のように区分していき、各三角形の内角と1辺(「基線」といいます)の長さを測定します。これらの測定値を用いて、次から次へと計算を拡大していく。当然、正弦定理や余弦定理が必要になります。あまり三角関数の知識を身につけていなかった私は、これを契機に数学の教科書を読みなおし、測量の原理を理解しました。そして、机上の学問と軽視気味であった数学が、国土開発や建設の基礎となる重要な分野に活用されていることを知り、感動するとともに、数学が面白くなりました。

 其の二。大学を卒業して、私は理化学機器のメーカーに就職しました。実は、就活に失敗して大変な目にあったのですが、ここでは触れないことにします。その会社で、私は主に輸出と海外の市場開発を担当していました。営業系社員ではあっても、理化学機器を扱っている以上、技術的なことがまったくわからなければ顧客に商品の説明もできません。しかも一応は海外要員なので、外国の技術者をアテンドしたり国際見本市(trade fair)の自社ブースで来客に応対したりする機会が多く、下手な英語で技術的な話題についていかなければならないのです。もちろん、会社では一定期間工場実習などもあり、製造販売している製品のイロハは覚えさせられます。しかし、技術系社員には遠く及びません。何しろ知識のバックグラウンドが違いますし、製品への向き合い方が全然違うのです。それでも私は私なりに、取り扱う製品に興味や愛着はもっていました。中でも最も思い出が深いのは、大規模な純水製造装置(distillation apparatus)です。医薬品や半導体の製造など工業目的にも、医療や教育の現場にも、そして飲料水に恵まれない地域の人たちのためにも、大きな貢献のできるすぐれものです。水を浄化する方法として、活性炭フィルターによる濾過は誰もがご存じだと思います。しかし、これとは別に、あるいはこれと組み合わせて、イオン交換樹脂や逆浸透膜(reverse osmosis; RO)を用いると、より純度の高い水が産出できます。さらに紫外線滅菌ランプで滅菌すれば万全です。この当時の私は、イオン交換と逆浸透膜の原理がわからなかった、というより、知らなかった。そこで高校の化学の教科書に救いを求めたところ、私が仕事で必要とする以上の詳細な説明が書かれていました。高校時代に宝物に気づかぬまま、通り過ぎてしまったようです。以来、私は化学が大好きになりました。

 

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