カタカナもむずかしいかも


カタカナもむずかしいかも


 
英語がたくさん出てくるが、あくまでも日本語の話、カタカナ語をどう読むかの話である。

 □ 学生センター内にサンドイッチのSUBWAY(サブウェイ)が開店した。SUBWAYといえば発祥地のアメリカでは、サワードー(sourdough: ほのかに酸味のある生地)のパンを選べる店も多い。
  日本ではどうなのだろうかと思いネットで検索してみたところ、サワードーとともに、サワードウ、サワードゥ、のカタカナ表記が多く出てきた。dough の英語音は [dou] で、これをカタカナ語で書こうとすれば、確かに ドー、 ドウ、または ドゥ となろう。dough は「胴」の音に近く、Do you …等の do の [du:]、ドゥーの音とは違う音である。

ところが面倒なことに、この do の方も ドゥー とともに、よく ドゥ と書かれている。西城秀樹のヒット曲 「ギャランドゥ」 や100円ショップ 「キャンドゥ」 もそうである。そうなると、dough の [dou] という音も「ドゥ」と書かれ、do の [du:] の音も 「ドゥ」 と書かれていることが多く、「ドゥ」 だけ見たらどちらのように読めばいいかわからない。
   バレエの toe shoes の toe [tou] が 「トゥ」 と書かれ、また数字の two や前置詞の to [tu:] も時に 「トゥ」 と書かれて、カタカナ表記上は区別がなくなってしまうのも同じことである。
   その語の読み方を知っていればいいが、サワードゥ と書かれた語に初めて出会ったときは、日本語として、サワー[du:] なのか、サワー[do:/dou] なのかがわからない。

 □ 一昔、二昔前、三浦云々事件が世間を賑わしたとき、アメリカの砂漠で身元不明の遺体が発見された。この際、テレビや雑誌には、身元不明女性を表す英語として ジェーンドゥ (“名無しの権兵衛”的な表現)の表記が多く見られ、テレビリポーターやコメンテーターには、ジェーン[du:] と言う人も多くいた。当時この語を知らなかった私は、ジェーンドゥ の表記を見て、さらにレポーターのジェーン[du:] と言うのを聞いて、そういうものだと思っていた。しかしその後、英語で Jane Doe という綴りを見て、なんだ、ジェーン[do:/dou] だったのかと覚え直したこともあった。

 □  もともと日本語には tu, du のような音はない。これらが外国から入ってきたとき、最初は ツやヅ/ズ に置き換えて発音し、そう書いていた。今でも、two outs は ーアウト、tour は アー、Katmandu は カトマン、Hindu は ヒンーなど、いくらでも見られる。
   しかし最近は、特に英語音の普及とともに、アナウンサーが トゥーアウト と言ったり、トゥートゥ と書く人もいる。ヒンー教も、若い人たちは ヒンドゥー教 と言うし、ヒンドゥー と書くようだ。Mexico City が メキシコシー から シティー へ、radio が ラオ から“壊れかけのレィディオ”へ、とより原音に近く表記したり、言おうとしたりする変化が見える。日本語の音や表記も外国語の影響を受けて変化しているわけだ。

 □ それにしても、日本語母語話者が見てもどう読んでいいかわからないカタカナは難しい。もともとカタカナとは、普通は読み方はひとつしかなく、誰でも同じように簡単に読めるものである。しかし、外来語の原音を表そうと工夫するがゆえに、時に複雑になってしまう。
   確かに、サブウェー よりも サブウェイ や サブウェィ の方が、英語の二重母音[ei]の e から i に向けて自然に移っていく感じは出るかもしれない。本当に日本人は英語が好きである。日本語となったカタカナ語においても、何とかして元の英語らしさを表現して差し上げたいのだ。サブウェイの場合は、上記3つのいずれの感じで読もうと大差はなく問題がないが、やはり「ドゥ」や「トゥ」のような場合はよく読めない。
   また、entertainerは、エンターテーナー や エンターテイナー とともに、エンターティナー と書かれていることもある。この「ティ」を エンター[te:/tei]ナー と読めばよいが、先日、またテレビで、エンター[ti]ナー と言っていたのを聞いた。この「ティ」の表記も曲者である。

 □ 外来語が入ってくれば、日本語との間で干渉が起こり、さまざまな変種や揺れが見られるようになり、また誤形や誤用も定着すれば正しいものとなることは、ことばの歴史からも明らかである。上代の昔から、文法はそれほど外国語の影響を受けていない一方、音はかなり揺さぶられて変わってきた。音は変わりやすい。これからもさらに変わっていくであろう。

政治・経済、文化・社会のグローバル化が言われて久しいが、言語音も文字表記もグローバル化が進み、ちょっと面倒、ちょっと面白いものである。

(音声表記は簡易。写真は SUBWAY 関連サイトより。ma)



 

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