「翻訳をビジネスにする」

引きつづき、連続講演会「仕事と暮らしのつくり方」第三回についてレポートします。6月2日に開催された第三回では、ゲストに本学科OGの河原和子さんをお迎えしました。河原さんはデザインと翻訳の会社アプリオリの社長をなさっています。インタビュアーは本学科4年生の2人です。

河原さんは学生運動が盛んなときに高校時代を過ごし、社会に順応している大人たちに強い違和感をもったといいます。獨協では現代詩を専門とする先生のゼミに所属し、ようやく信頼できる大人を見つけたと思ったものの、社会や組織に組み込まれたくないという気持ちはますます揺るぎないものになりました。

「英語だけは得意だった」という河原さん。獨協を卒業後は、翻訳など、英語に関わるアルバイトを点々としながら20代を過ごします。アメリカに語学留学し、当時のヒッピー文化やロック・シーンから強いインパクトも受けました。いわゆる「定職」に就いたのは30代になってからで、医療機器を扱う大手に就職しますが、会社の移転をきっかけに早期退職して、女性たち5人で会社を立ち上げます。それがアプリオリで、現在では15人の社員をもつ会社となりました。

アプリオリのモットーは「早い安いを売りにしない」こと。たとえば商品デザインひとつとっても、顧客との対面での話し合いを重ね、商品の中身にきちんと添ったデザインになるよう注意を払います。あるいは翻訳でも、翻訳家の原稿に翻訳コーディネータが再度チェックをかけます。

アプリオリのきめ細かな仕事を可能にしているのは、河原さんと社員一人ひとりの信頼関係にあるようです。河原さんが社員に仕事を委ねれば、社員も責任を果たすべく努力する――そうしたいい循環が生まれているようで、組織のひずみに敏感な河原さんならではの雰囲気作りが功を奏しているのでしょう。

河原さんは、これから翻訳家をめざす人へのアドバイスもくださいました。現在ではオールラウンドに何でもできる翻訳家よりも、専門分野をもった翻訳家に需要があるそうです。たとえば証券会社に就職して、3〜4年働きながら金融業界の英語を勉強して、それから翻訳学校に1年通って訳しかたの作法を学んだうえで、翻訳家としてスタート。ただし「いやになっちゃうくらい誠実に」わからないところを飛ばさない根気強さも必要です。

昨今の就職はいわゆる「買い手市場」。就職活動をする大学生は企業の都合に振り回されがちですが、河原さんのお話は、企業に振り回されない働きかた・生きかたを目指すものでした。「人とちがってこうだという気持ちがあるなら、その気持ちをすぐには口に出せなくても大事にしましょう。その積み重ねが自分自身なのですから」――そうおっしゃる河原さんに、インタビュアーの2人をはじめ、うなずく人も多かったようです。

 

「海運会社で英語を操る」


連続講演会「仕事と暮らしのつくり方」第2回が5月26日に開催されました。ゲストは若杉真央(わかすぎ・まさひろ)さん、本学科OBです。若杉さんは静岡市清水に本社のある天野回漕店に勤務なさっており、アメリカの関連会社で社長を務めた経験もおありです。今回のインタビュアーは、ゼミの後輩にあたる4年生2人。

「ふつうの獨協生でした」と語る若杉さんですが、英語には自信があったとのこと。英語を生かした仕事がしたくて、地元の国際物流会社、天野回漕店への就職します。物流会社とは、たとえば製造業者から販売業者へと商品が配送されるとき、その配送部分を代行する会社のこと。天野回漕店では清水港を拠点としつつ、中国、タイ、アメリカなど海外と日本をつなぐモノの運送を手がけています。

働きはじめてみて、荒波のなか漁船に飛び乗る(!)というような苦労はあったものの、英語に関して言えば、業務に使う英語はほぼ決まっていたり、国際船舶の乗員は英語を母語としない人が多いためにかえって分かり合えたりで、さほど困難は感じなかったそうです。しかし大きな試練となったのは、アメリカの関連会社に社長として出向したときのこと。最初は早口のアメリカ英語を聞きとるのが大変だったうえに、初の管理職就任で初の部下を率いねばならず、アメリカでは日本の常識が通用しません。

困難な状況下での若杉さんの対処法は「自分の側の改善を心がけること」でした。早口の英語に一刻も早く慣れるため、仕事の合間にニュース英語を何度も聴くなど、地道な努力を重ねます。また同時に、周囲の人々はもとより、いろいろな業界の人々の話に真剣に耳を傾けることによって、「自分なりのアメリカ」を体得していったそうです。

社長としての任期を無事に果たし、現在は本社勤務に戻った若杉さん。視線はこれからのプロジェクトに向けられています。90年代のバブル崩壊以降、日本の港湾の総取引量は減少傾向にあり、日本で第7位の清水港も例外ではありません。今後は海外と海外を結ぶ物流ビジネスの展開に力を入れたいと熱く語っていらっしゃいました。

インタビュアーの二人は、物流? 回漕店? 海運会社? と最初「?」だらけでしたが、若杉さんに詳しくお話をうかがううちに具体的なイメージがつかめた様子でした。

 

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