90分のShakespeareと9時間のShakespeare

春休み中に、合宿を行ったゼミも多いと思います。私のゼミではみんなで芝居を見に行きました。鳥獣戯画という小さな劇団が上演する『三人でシェイクスピア』という芝居です。

これはもともとアメリカの若者が数名で演じたシェイクスピア劇のパロディが元になっています。3人の役者が次から次へと役を変え、37作品をコラージュにしてものすごいスピードで駆け抜けるように演じるのです。The Complete Works of Shakespeare (Abridged) 『シェイクスピア全集(短縮版)』というタイトルです。遊び心たっぷりのドタバタ喜劇です。

劇団の名前にもいたずらが仕組まれていました。シェイクスピアの故郷ストラットフォードに拠点を置くRoyal Shakespeare Companyの名前は、しばしば短くRSCと省略されます。彼らはReduced Shakespeare Company、略してRSCと名乗っていました。どちらもRSC。イギリスを代表する劇団と、アメリカからやってきた小さな旅芸人一座の名前をうっかりすると見間違えてしまうように、ご丁寧に同じように見えるロゴまで使っていました。

この極小シェイクスピア劇団RSCが演じた『シェイクスピア全集(縮小版)』は、イギリスの観客にも大いに受け、ロンドンのど真ん中の劇場で9年間のロングランで上演されました。そんなに受けた要因の一つは、彼らがシェイクスピアの劇のツボをうまくつかんでパロディにしたからでしょう。たとえばイングランドの王冠をめぐり、果てしない権力闘争と内乱の続く時代を描いた歴史劇の数々。それを彼らは激しくボールを奪い合うアメリカン・フットボールになぞらえたのです。ボール(王冠)は次から次へとめまぐるしく持ち主が変わり、両陣営はフィールド(国土)を我が物にしようと権謀術数をめぐらす・・・。

こんな調子でシェイクスピア劇に描かれた人間臭いドラマの核心だけをチョイチョイとつまんで、つなぎ合わせ、全部で90分くらい。観客は笑い転げている間にあっという間に37作品が終わってしまいます。

その二日前に、私は埼玉市にある劇場で蜷川幸雄氏演出の『ヘンリー六世』を見ていました。こちらは対照的に超大河ドラマ風です。もともと3部作である『ヘンリー六世』を、前後編の二部に再編したものですが、休憩を入れると8時間以上かかりました。

その8時間の間、ずっと繰り返されるモチーフがあります。それは大きな舞台の天井から常に赤バラ、白バラが降り続けるのです。ランカスター家の赤バラとヨーク家の白バラ、その両家の対立が続くバラ戦争を描くシェイクスピアの歴史劇。どちらが勝利しようと、しょせん大義に差はない。薔薇の花が散り続けるように、戦いの中で命の数々が失われていく・・・。「散華」という日本的な無常感と、シェイクスピアの歴史劇に通底する「王冠をめぐる戦いの空しさ」というテーマを重ね合わせて視覚化したところがこの上演の特徴です。

うんと短いパロディと、重厚長大な記念碑的上演。二つを立て続けに見たわけですが、シェイクスピアのテクストの中の「ツボ」を押さえて、それをいかに表現するかが問題なのだと改めて思いました。テクストを読むということは、この「ツボ」を探し出す行為でもあります。今年ゼミで読んでいるのはTwelfth Night。恋は甘く、切なく、そして滑稽・・・。そんな甘さや切なさや滑稽さがどんなふうにこの喜劇に組み込まれているのか、1年間かけてみんなで読み解いていきたいと思っています。

今日、4月23日はシェイクスピアの誕生日、そして命日とされる日です。

 

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